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「さあ、どうぞ。寒い時にはこれがいい」
寛司が缶コーヒーを差し出すと彼女は頭を下げながら両手で受け取った。
「ああ、あったかい。頂きます」
二人は花壇の縁に並んで腰掛けた。
「交番で、あなたの名前を知った時、実は驚いたんです」
「どうしてですか?」
「亡くなった妻と同じ名前なんです」
「まあっ!」
「なんだか不思議で…………あなたは結婚されていますか?」
寛司は彼女に顔を向けた。
「いいえ。離婚しました。今は独身です」
「ああ、それは…………お子さんは?」
「居ません。流産して、それから子どもが出来ずに。それが原因で離婚になったんです」
「そうですか。なんだか身上調査みたいで、すみません」
「いいえ。職場の仲間にも話していますから平気です。バツイチなんです、わたし……」
彼女は空を見上げている。
「そうですか。良かった。いや、離婚が良かったというのではなくて、そんな大変な事にもめげずに頑張って生きる。隠し立てせずに自分はこうだと堂々と言い切れるって素晴らしい事です」
「あたしは、格好つけてもしようがない。ありのままでいいって思うだけです」
「うん。そう! その通りです。僕は役場に勤めています。大学も卒業出来ずに中退しました。ろくなもんじゃない」
「まあっ! やだ……面白い人!」
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