11人が本棚に入れています
本棚に追加
深夜11時。
寛司はフリースの上にボア裏地のついたジャンパーを着て部屋を出た。
工事現場へ向かう。
寛司は誘導員に近づいて尋ねた。
「こんばんは。あの……美山あかねさんですか?」
「はい。そうですが、なにか?」
彼女はゴーグルとマスクを外した。
「すみません。きのう定期券を落とした者です。上原寛司といいます」
「あらっ、あなたでしたか。あの時、すぐに気づいたんですけど、車が来てしまって……ここを離れる訳にはいかなくて。それで交番に」
「ええ。それで良かったんです。お陰さまで戻りました」
「あかねちゃん。交代しよう」
背後から声が掛かった。
「あっ、須藤さん。まだ休憩には」
「いいさ。後で俺の休憩時間に頑張ってもらうから」
須藤は、にこやかに告げるとゴーグルを着け、道路の中央に出た。
「コーヒーを奢らせて下さい。あそこで少しだけ話をしましょう」
寛司は、はす向かいのディーラーの一角に在る自販機を指差した。
最初のコメントを投稿しよう!