第3章 記憶

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慌ただしい一日が過ぎていく。 消灯時間を過ぎてもなかなか眠る事すら出来ないでいた。 目が冴える。 身体の痛みは不思議なことにだいぶマシになっていた。 あんなに痛くて怠かったのに単なる筋肉痛のようだ。 ベッドの側の灯りはボゥと、手元だけを照らし 天井に伸びる影がまでもがなんとなくボヤついている。 メイ子さんが気を利かせて持ってきてくれたアルバムを開いてみて 本当なんだ、と思った事が2つ。 一つは、彼女が家族だった事。 もう一つは オレの中の記憶のうち 彼女の、咲良 華さん彼女だけの記憶が ……すっぽりと抜け落ちている事だ。 例えば、旅行に行った記憶も この誕生日の日の記憶もあるのに そこに 彼女がいた事を知らない。 分からないんだ。 先生に尋ねたら "症例としてはマレですが、無いわけではありません" と言われたばかりだ。 印象的なのは親父とメイ子さん共通の知人の結婚式。 この記憶の中のこのシーンに 彼女はいないのに 写真の中にはちゃんと写っていたり…… 彼女に笑顔がないこの写真を どうしてだか、ずっと見つめていて なんとなく それを思い出せない事が苦しいと感じた。
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