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若狭は目を見開いた。
若狭は父・気比から、大倭の支配者は反抗する者の首を刎ね、略奪するように租を集める恐ろしい男だと聞かされていた。
「うそじゃないよ。上集えが終わると、上々も郷の衆も、いろんな物を秋市に持ちよって交換するんだ。市は十日間だよ。広場に村の衆が小屋を作ってる・・・。市を開く準備をしてるんだ。明日、行ってみようか?」
若狭が理解しないと思ったのか、八島野がじっと若狭を見つめている。
「稲様にお断りしなくては・・・」
八島野に思いを見抜かれるような気がして、若狭は目を伏せたまま、団子を皿に乗せた。 皿は、拝殿に集まった布都斯、和仁、宇留賀、一甫、真一、余部と息子・杜撫孔、布都、佐久佐比古、乾那有、大足春、帆負、狭智たちの分の十三枚と、稲と芙美と子供たちと、尾羽張の妻・阿緒理と息子・樋速彦、和仁の妻・由良と息子・水若酢たちの分の大きな皿が四枚である。
若狭には、これだけで充分な夕餉に思えたが、さらに稲と芙美たちが下屋から焼き魚と汁、蒸した木の実と野菜、干した果物を運んできた。
気比の郷では見られない豊かな夕餉に、若狭は驚いた。
「母上。明日、若狭といっしょに、市を見に行っていいですか?」
若狭が夕餉の品々に気を取られている間に、八島野が稲に尋ねた。
「市を開くのは五日後ですよ。それに、目の前の広場で開くのだから、市が開かれている十日の間、いつでも見れるでしょうに・・・」
そう言って皿を広間に並べながら、稲は何やら考えこんでいる。
「上集えが終われば、手があく。市がはじまったら、皆で見てくればいい」
稲のそばで芙美がそう言った。
「・・・市の準備を見るのも、何かとためになりますね・・・。
では、雨がやんだら、明日にも、皆で見てきなさい。供に狛手を行かせましょう」
稲がそう言った。
布都斯に仕える蹈鞴衆の狛手は、狛手の叔父上と呼ばれ、布都斯の母方の遠縁である。「はいっ」
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