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話を聞くと布都斯が言った。
「夏の上集えで、安芸と宇佐の戒めについて上議りする」
「夏の上集えの後に、久幣臥の地の遠征がありまする。安芸津と中津へ攻め入るお考えなのですか?」
仁多郷、横田村の上・宇留賀が訊いた。
布都斯は昨年晩秋に、館の守屋を務める狛手に、
『安芸と宇佐の戒めは戦になるかもしれぬ』
と語った。それらが狛手を通じて上々に伝わっているらしく、皆が安芸津と中津の遠征を納得しているらしかった。
「皆から話を聞き、策は夏の上集えで説明して上議りする。
皆も良い策があれば、夏の上集えで話してくれ」
「はいっ」
「尾羽張・・・」
下春は尾羽張に小声で言う。
「布都斯がそれとなく狛手に話したことが、すでに、上々に伝わっています。
おそらく、大森の息がかかった石見の者が、安芸と中津の戒めは戦だと安芸と宇佐に伝えているでしょう」
「では、安芸も宇佐もは戦の備えをしていると?」
「大森は、秋の上集えで布都斯に命じられて、安芸津へ交渉に行ったままもどりません。あの時から、安芸も宇佐も戦の備えをして、いつ攻め込まれるかと緊張と恐怖の日々がつづいているはずです・・・・」
「兵は気を病んでしまう・・・」
「それが目的なのですよ・・・」
尾羽張に言う下春の頬に笑みが浮んでいる。
布都斯は考えていた。
戦をせずに、大倭周辺の国々を大倭の商業圏に取りこんで中津と安芸を孤立させるため、に、布都斯と宇留賀は吉備の国へ、下春と尾羽張は西州へ商いを装って偵察に行き、大倭の反映と兵力のうわさを周辺諸国に流す。
この策は布都斯三十三歳の夏から、徐々に実行されようとしていた。
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