第1章 慟哭

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叫んでも、呼んでも。 声は波に飲み込まれて消えていく。 顔に打ち付ける雨も。 叩きつけるように降り注ぐ雨も。 全ては、海に還っていく。 なみ… 奈美っ! 俺を許すな! 連れていけ! 荒れた海に飛び出しては、吼えるように空に向かって叫ぶ。 気が済むまで叫んだ後は、ただ船に転がって天を仰ぐ。 こんなことをしても、帰ってこないこともわかっている。 意味がないことも。 だけど、荒れた波を前にしてしまうと、衝動的に海に出る。 俺は、狂っているのかもしれない。 いや、狂っているんだろう。 奈美が死んだ、あの日から。
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