第1章 慟哭

5/6
前へ
/30ページ
次へ
大漁だ。 浮かれてはしゃいだ船の上。 同じ海に、あの日奈美は沈んでいった。 生と死が、隣り合わせに存在する場所。 めちゃくちゃな一日だったけど、やけに夕日がきれいだった。 記憶に残るのは、オレンジ色に照らされた、血の気のない真っ白な奈美の顔。 柔らかな日の光は、命のないはずの肉体に、命を吹き込んだみたいに見えて。 今にも目を覚ましそうだと思ったんだ。 あの鼻にかかるような、甘えた声で、『雄ちゃん』と呼ばれることは、二度とない。 頭では、理解したつもりだった。 だけど、心は目の前の現実を拒絶する。 なぁ、なんか言ってくれよ。 泣き顔しか思い出せない俺は、最低な人間だ。 泣いてすがることもできず。 ただ黙って見下ろすしかなかった。 
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加