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大漁だ。
浮かれてはしゃいだ船の上。
同じ海に、あの日奈美は沈んでいった。
生と死が、隣り合わせに存在する場所。
めちゃくちゃな一日だったけど、やけに夕日がきれいだった。
記憶に残るのは、オレンジ色に照らされた、血の気のない真っ白な奈美の顔。
柔らかな日の光は、命のないはずの肉体に、命を吹き込んだみたいに見えて。
今にも目を覚ましそうだと思ったんだ。
あの鼻にかかるような、甘えた声で、『雄ちゃん』と呼ばれることは、二度とない。
頭では、理解したつもりだった。
だけど、心は目の前の現実を拒絶する。
なぁ、なんか言ってくれよ。
泣き顔しか思い出せない俺は、最低な人間だ。
泣いてすがることもできず。
ただ黙って見下ろすしかなかった。
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