理想的なRatio.05

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  「どうぞどうぞ、寒くなってきましたから防寒していってくださいね」 「ありがとうございます、お先にお昼失礼します」 最初は声が低くて大人な雰囲気でちょっと話しかけづらい印象だったけど、何度も顔を合わせているからか緊張もだいぶ解けて、笑顔で自然に話せるようになってきた。 ひらひらと手を振って見送ってくれる村木さんに軽くお辞儀をして、ロビーへ。 先日シンくんと出会したそこは、今日は使用済の撮影小物が入っていると思われるコンテナが数個置かれているだけで、それ以外はあの日と同じ情景。 「(だいぶ寒くなってきたなぁ…)」 あの日からちょうど一週間。 休んでいる間に色々考えたけど、考えれば考えるほど結婚したい男No.1の行動には理解が追いつかなかった。 年上の女性が珍しいわけでもないだろうし、彼の周りには綺麗な人もいっぱいいるはず。 なのになぜ、私にちょっかいをかけてくるのだろうか? もしかして、私が過剰に反応しているだけでアレはちょっかいでもモーションでも何でもないんじゃないか。 この間のセリフだって、台本通りに語っただけで特に深い意味もなかったかもしれないし、それに…もしかしたら結婚したい男No.1には彼女がいるかもしれない。 (…でもやだな、彼女いてあの雰囲気、あの態度だったら) ふぅ、と息を吐いて顔を上げれば、秋真っ只中の今日の空は雲一つない快晴。 後ろでロビーの自動ドアが閉まる音を聞きながら、嬉しそうに手を振るもやしくんの元へ足を踏み出した。 *** 「美味しいですね」 もやしくんの運転に揺られてたどり着いたのは、ちょっと前にメディアで取り上げられて話題になっていた韓国料理屋だった。 スタジオから車で15分ちょっと。 思ったよりも近かった店内に足を踏み入れれば、もやしくんは「江村です」と名前を告げて店員とにこやかに言葉を交わしていた。  
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