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「…あの、江村くん」
「看病してくれたのって、デザイン部の人ですか?相原さんの前の席の…」
「前の席…って?
………っ、ええええ?!」
「ぁ…ごっごめんなさい、こんなこと言うつもりなかったんですけど…」
「いやいやいや!笹木はない!絶対ない!」
前の席って誰だっけ?なんて思い浮かべて、もやしくんの言いたいことが分かって思わず絶叫してしまった。
どうやら、もやしくんは笹木と私の仲を疑っているらしい。
でも、笹木となんてありえなさすぎて笑いさえ沸いてくる。
「笹木はただの同期だから。そういう対象として見たことないし…それに看病してくれたのは同じマンションに住んでる親友だよ、女の人」
そういう人がいないと言って変にもやしくんを期待させるのもあれかなと思ったけど、ここは正直に話しておく。
喉が詰まってしまったように食事に手を付けなくなった彼の顔を伺いながら声をかければ、もやしくんは「あ、そうなんですか…」と気の抜けたような声でぼそりとつぶやいた。
「すみません…変なこと言って」
「ほんとだよ、休憩時間だけど一応まだ仕事中だよ」
責める口調にならないよう気を付けて笑いながら話せば、もやしくんはいつもの調子でワタワタとどもりながら「すみませんっ」と頭を下げた。
メディアで取り上げられ、話題になっていただけあってこの店の料理はどれも美味しい。
参鶏湯やチヂミはもちろん、小皿で出てきたイカのキムチがとても美味だ。
「江村くん、食べよ、あんまりゆっくりしてると流石に休み過ぎだって怒られちゃうよ」
「あっはい」
美味しい、とつぶやけばもやしくんはホッとしたように笑みをこぼして、相原さんの食べてる時の表情好きです、と照れくさそうに自分の皿に手を付け始めた。
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