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「相原さんの絵コンテ、分かりやすくて実は直しなしでそのまま使わせてもらったんだよ」
「あ、そうだったんですか…ありがとうございます」
「一貫した世界観があって、おかげで良い絵が撮れた。こちらこそありがとう」
斜め前からのあたたかい笑みに返事をすれば、結婚したい男No.1がどこか満足気に口元を緩めてドリンクをあおっているのが目に入る。
座ったまま頭をぺこりと下げると、澄江さんは私の様子を見てハハッと声を出して笑った。
(…あぁ、これでもう、本当に最後だ、)
隣との距離、わずか20cmほど。
もやしくんは緊張しているのか、姿勢を綺麗に保っていて、その反対側では彼の弟が背中を丸めて楽しそうに監督たちと談笑している。
この仕事が終われば、また普通に内勤の日々が始まる。
元の生活に戻るのだ。
こんな風に他の課の人と関わることもなくなるし、会社から出ることもほぼないだろう。
コンペに参加しつつ、頼まれた仕事をこなす毎日に戻るのだ。
「長いようで短い数ヶ月でしたね」
「うん、そうだね」
右隣からかけられた声に肯定の返事を返せば、もやしくんは嬉しそうに「お疲れさまでした」と微笑んだ。
小綺麗な居酒屋の個室。
業界人20名弱での宴会は、仕事の話を交えながら思ったよりも普通に過ぎていった。
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