狼になりたい

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こんなに簡単に抱きしめてしまえるのに、この細い肩に俺は、どれだけの荷物を背負わせてきたんだろう。 そして俺はどれだけそれに、気づかないふりをしてきたんだろう。 「ひかる、お前、保育士になりたいって言ってただろう」 「……昔のことだよ」 俺の胸の中で、ひかるのくぐもった、小さな声がした。 「昔……ってお前、いくつだよ。まだ22だろ」 ひかるを抱きしめたままで、俺は少し笑った。 「来年から、専門学校行け。2年か……3年頑張れば資格取れる」 ひかるは、ゆっくりと俺を見上げた。涙に濡れた睫毛がふるふると揺れる。 それを綺麗だな、と俺は思った。
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