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────やがて世界から、戦争の記憶、文明、『地球』という名が完全に失われ、ヒトが原初に還った頃。世界各所では太古の建造物が続々と出土し始めていた。
原初の人々はそれを『遺跡』と呼び、その中から見つかる過去の叡智に歓喜した。
それは、燃える水がいらない炎。
それは、離れた場所でも会話ができる石。
それは、矢がいらない光る武器。
太古の『ヒト』からすればとるに足らない技術も、自然と共に生き野山に暮らす時代においては重宝され、人々はなぜ『遺跡』が存在するのか分からないまま、こぞってそれらを探し回った。
はっきりと解明できない技術を取り入れたことで文明は急速に進歩したが、その、よく理解できない『宝』を取り入れた世界は何処かちぐはぐで、しかし人々はその矛盾に何ら疑問を抱くことなく、ただただ日々を過ごしていった。
部族が集落を作り、それは村になり、そのうち街ができ、やがて国が生まれた。文明は一定の水準まで達し、かつて部族の長を名乗っていた者が王族を称するようになっていた。
王の庇護のもと世界は安定し、ヒトは今日も『遺跡』とその『宝』の恩恵を受け日々を過ごしていく。
その利便さへの感謝と、得体の知れないものへの畏怖、少しばかりの疑問、そして、数万年前から遺伝子に刻まれた恐怖。無意識の内に、それらを抱えながら────
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