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夏樹が芹澤の仕事ぶりに改めて感心していると、移動させたベッドの縁から芹澤がひょいと顔を出した。
「松本くん」
「はい」
芹澤はベッドと壁の間の隙間に入ったまま、器用に腕だけを出して一センチ四方ほどの小さなプラスチックの箱のようなものをベッドの上にぽんと乗せた。
「――あの、これ何ですか?」
「コンセントの中に隠してありました。専務に渡してください」
「――?」
「ほら、さっさと動く。渡したらベッドを戻しますので手伝ってくださいね」
言うだけ言うと、芹澤は再度ベッドと壁の間に隠れてしまった。
夏樹は言われた通りに、小さな箱状のものを久志に渡す。
「コンセントの中にあったそうです」
黒いサイコロのような箱を受けとると、久志はそれを指先につまんで目の前に掲げた。
久志の眉間が僅かに寄る。
その後、リビングや浴室など1LDKの夏樹の部屋の中から計五つ、なにかの部品のようなものが発見された。
それぞれ形や大きさは様々だが、それが一体何に使うものなのか夏樹には全く見当がつかない。
「――あの、すみません。これ何ですか?」
ローテーブルの上に並べられたそれらの中のひとつを手に取り夏樹が尋ねる。
「盗聴器ですね。ああ、今松本くんが持っているのはカメラです。奥の部屋のクローゼットの上に設置してありましたよ」
「――はあ、盗聴器……えっ!? 盗聴っ? 何ですかそれ、何でそんなのが俺の部屋にあるんですかっ!?」
「それはこっちが聞きたいくらいだが。夏樹、身に憶えはないのか?」
身に覚えなど全くない。夏樹はカメラだと教えられた、長さ一センチほどの筒状のものをしげしげと眺めながら首を横に振った。
直径は鉛筆ほどで、なるほどよくよく見れば、筒の先端につまようじの先で突いたような穴が空いている。どうやらこの部分から撮影するらしい。
奥の部屋のクローゼットの上ということは、夏樹が寝ているベッドを上から見下ろすように撮影していたということだ。
しらないうちに寝ているところを誰かもわからない人物から見られていたなんて。
夏樹は今更ながら自分が置かれていた状況を理解し、背筋を震わせた。
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