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見ず知らずの男から突然「付き合っている」などと言われたにも関わらず、眼鏡の男は特に驚いた様子もなく夏樹のことを観察するように見下ろしている。
百七十に二センチ届かない身長の夏樹が見上げなければ顔を合わせることができないということは、この男、かなりの長身である。
長身の男は、無表情ではあるが、眼鏡の奥の切れ長の目や通った鼻筋、男らしい厚みのある唇がバランスよく配置された端正な容姿をしていた。
「松本くん」
長身の男のあまりのかっこよさに、つい夏樹が見とれていると、苛立ちを隠しきれない口調で青嶋に名前を呼ばれた。
「あ、はいっ」
「――その人が、その……君の恋人なのか?」
「……はい……その」
突然現れた夏樹の恋人の存在を、にわかには信じられないのだろう、青嶋が探るように尋ねてくる。
夏樹は緊張から男の腕を掴む手にぎゅっと力を入れた。
もしここで、この長身の男が夏樹とはなんの関係もないなんて言ってしまったらおしまいなのだ。
長身の男は自分の腕を掴んでいる夏樹の手が僅かに震えているのを黙って見て、そして口を開いた。
「……そうです。私が彼……松本くんのパートナーですが。彼が何か失礼なことでも?」
そう言いながら、男の大きな手のひらが夏樹の震える手をそっと包み込む。
男の言葉に、俯いてぎゅっと目を閉じていた夏樹が顔を上げた。男は相変わらず無表情で、何を考えているのか全くわからない。
だが、震える夏樹の手に重ねられた男の大きな手のひらはとても温かくて、夏樹の緊張はゆっくりと解けていった。
「あ……いや、偶然、松本くんと会ったものだから……」
「――そうですか。お話し中のところ申し訳ないのですが、私どももちょっと急いでいるもので……失礼させて頂いてもよろしいでしょうか?」
「……あ、ああ」
口調はとても丁寧だが、青嶋に向けられた男の目はゾッとするほど冷たく冷えきっており、少しでも逆らったら何か恐ろしい呪いでもかけられそうな妙な迫力がある。
だが、それなりに人生の荒波に揉まれてきた青嶋三郎、五十九才。目つきの悪い若造に怯んでどうする、と、青嶋は信楽焼のタヌキのようにどっしりと構えて男のことを睨み返した。
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