3 遭遇 その2

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「――青嶋三郎さんですね」  おもむろに、長身の男が口を開いた。 「え? ああ、そうだが」 「祖父から色々とお噂は聞いております」 「……?」 「紺野久志と申します」  長身の男が名前を名乗ると、それまで敵意丸出しで男のことを睨み返していた青嶋がさっと顔色を変えた。 「青嶋さん、そろそろよろしいですか?」 「あ、ああ……そっ、それじゃあ、松本くん、急いでいる所悪かったね。私はここで失礼するよ」 「……はい」  すでに男――紺野の呪いがかかってしまっていたのだろうか、青嶋は若干青ざめた様子で、あたふたとその場を後にした。  とりあえず助かった。自分の初めてがタヌキに奪われなかったことに安堵した夏樹は、青嶋の姿が見えなくなると、へなへなとその場にへたり込んでしまった。 「大丈夫か?」 「――はい、すみません。いきなりご迷惑をおかけしました」  立ち上がろうとする夏樹に紺野が手を貸す。 「迷惑だとは思っていない。それより、なかなか印象的な告白だった」 「――え?」 「安心しなさい、私は性別にこだわる方ではないから。君の気持ちに応えようじゃないか、夏樹」 「――は?」  無表情だった紺野が、メタルフレームの眼鏡の奥で僅かに目を細める。  確かに夏樹は男性にしか恋愛感情を持つことができない。  だからと言って、通りすがりの男性にいきなり告白するような大胆な性格でもない。  紺野の盛大な勘違いに気を取られ、なぜ彼が夏樹の名前を知っていたのかという疑問はどこかへ行ってしまった。 「あのっ、俺があなたと付き合うっていうのは……んっ」  違うんですという夏樹の言葉と夏樹のファーストキスは、紺野の唇にあっさりと奪われてしまった。
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