16 頑張る男と伝わらない気持ち 3

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「そちらの着ぐるみ、目処がついたのなら仕事してください」 「そうだな、わかった。野添くん、芹澤の案で進めてくれ。何日くらいかかりそうだ?」 「わかりました……そうですね、一日もあれば」  早速、着ぐるみの改良作業を始めた野添が、茶色の生地を手に答えた。 「案外早く出来るな。あ……でも、それだと私は出張中か。参ったな……芹澤」 「イヤです」 「私はまだ何も言っていないが」 「言われなくてもわかっています、どうせ野添くんを同行させるとか言うんでしょう」 「さすが芹澤だな。野添くん追加で手配を頼む」  当然とばかりに指示を出す久志に、芹澤が目を瞠る。 「久志さん、わかっていますか? 出張は仕事なんですよ。そこに何故、野添くんを同行させないといけないんですか!」 「仕方ないだろう? 明日には出来ると言っているんだから」 「……」  呆れて言葉が出ない。芹澤が黙っていると、さらに久志が続ける。 「それに気がかりな事があると、私も仕事に集中できない」 「……わかりました。手配します、野添くんの分は久志さんが出してください。経費からは出しませんよ」  芹澤の口からため息が零れた。  何のかんの言っても、幼なじみに甘くなってしまう自分が嫌になる。 「芳美と旅行か。芳美、俺と二人きりじゃないからって拗ねるなよ」  野添のバカが、また訳の分からないことを言っていたが、今度も一瞥もすることなく携帯を取り出した。 「……あ、山路くんですか? 明日からの出張、ひとり追加出来ますか?」 『はい大丈夫だと思います』 「専務のプライベートな方ですので、請求は専務個人にあててください」 『わかりました……その、部屋は専務と同室の方がいいですか?』  遠慮がちに山路が尋ねる。プライベートな相手だと聞いて、どうやら思い違いをしているらしい。 「同室でなくても大丈夫です。できれば近くの部屋にしてもらえると良いですね」 『了解しました。すぐに確認を取ってみます』 「悪いね。頼んだよ、山路くん」 『は、はいっ! 山路にお任せください! 芹澤さんのために、最高の手配をしてみせます!』 「……宜しく。後でメールしてください」  どうして自分の周りには、変な方向で個性的な人間しかいないのだろうかと、頭痛を覚えた芹澤は頭を抱えた。
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