16 頑張る男と伝わらない気持ち 3

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「久志さん。ここにいたんですね」 「ん? どうした、芹澤」  作業場兼リビングの隣の部屋で、応接セットのソファに腰かけた久志が、あたかも今、芹澤の存在に気づいたように顔をあげた。手には明日からの出張先の企業の資料がある。 「……まあ、いいでしょう。そのまま打ち合わせをします――失礼」  内ポケットで着信を知らせる携帯を芹澤が取り出した。 「はい、芹澤……」 『芹澤さん、山路です! 先程、芹澤さんから依頼いただいた件について報告ですっ!』 「山路くん」 『はいっ!』 「報告はメールでいいと私は言ったはずですが」 『はい。でも、どうしても直接芹澤さんへお伝えしたくて、お電話しました!』  もうため息しかでないのだろう。芹澤が大きく息を吐く。 「――それで?」 『芹澤さんの指示どおり、専務の隣の部屋を押さえました!』 「ああ、はい。わかりました……それでは……」 「おい、芹澤」  通話を切ろうとする芹澤を久志が呼び止める。 「山路くんだろう、夏樹は今どうしている? 様子を聞いてくれないか」  芹澤も夏樹の様子は気になる。昨日転んだ時にぶつけた頭と肩は大丈夫だろうか。 「山路くん、松本くんの様子を教えてください」 『松本ですか? 松本は今日、休みでしたが』 「え?」 『何でも風邪気味らしくて、本人から直接連絡がありました。疲れでも出たんでしょうね。俺が対応したんですが、そこまで酷いようでもなかったので二、三日休むように言っておきましたが』 「そうですか」  おそらく風邪ではないだろう。昨日芹澤が見た限り、結構大きなたんこぶが出来ていた。心配ではあるが、本人が直接連絡を寄越したのならそこまで心配する必要もないだろうし、数日もあればたんこぶの腫れも引くだろう。 「では、私からも後で連絡を入れてみます。山路くんも様子を見に行ってもらえますか?」 『はあ……そうしたいのはやまやまなんですが、実は甥っ子が入院しまして……』 「そうですか。お大事にしてください」 『ありがとうございます。すみません』
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