16 頑張る男と伝わらない気持ち 3

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 山路が沈んだ声で答えた。携帯の向こうで項垂れている山路の姿が想像できる。  彼が甥っ子の健太のことを我が子のように可愛がっているのを芹澤も知っている。久志のわがままで、あまり山路にばかり無理をさせるのも可哀想だ。  夏樹もたんこぶが落ち着くまでは、外をうろうろすることもないだろう。  そう判断した芹澤は山路に労いの言葉をかけると通話を切った。 「おい、夏樹に何かあったのか?」 「いえ……ちょっと風邪気味で今日は会社を休んだそうです」 「何だって!? こんな所でゆっくりしている場合じゃないぞ、芹澤、今すぐ帰るぞ!」 「落ち着いてください」 「夏樹の一大事に落ち着いてなんかいられるか」 「休む連絡は松本くんから直接あったそうですし、対応した山路も酷いようではなかったと言っていました」  焦る久志とは対照的に落ち着いた声で芹澤が続ける。  夏樹からは、久志のシャツを被っていて転んだことを言わないでほしいと頼まれていた。余計なことは言わない方がいい。 「それに、たまには久志さんがいない方が松本くんもあまり気を使わずにゆっくりできると思いますが」  確かに久志が家にいると、夏樹は体調が良くなくても久志のために食事や身の回りの世話をしようと無理をするだろう。  体調が悪いのに無理をする夏樹の様子を想像した久志が、言葉を詰まらせる。 「ですから久志さんは久志さんで、しっかりとやるべき事をやってください」 「わかった」  芹澤が久志が床に落とした資料を拾い上げ、手渡す。久志はそれを黙って受け取ると、ソファに腰を下ろした。
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