17 暗転

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 目を開いても真っ暗だ。  居酒屋で修一らと別れてすぐ、夏樹は薬品のようなものを嗅がされて気を失ってしまった。  どうやら手足をロープか何かで拘束され、ベッドの上に寝かせられているらしく、手足を動かそうと思っても体を捩るのがやっとで全く自由がきかない。  辺りの様子を窺おうと思っても、しっかりと目隠しをされているため、どこかの部屋のベッドの上に寝かされていること以外、自分がどこにいるのか見当もつかない。  せめて大声を出して助けを呼ぼうと試みてもみたが、口に猿ぐつわを噛まされているせいで大声どころか、くぐもった呻き声をあげるのが精一杯だ。  今朝、夏樹の勤務先へ具合が悪いので休みますと電話をさせられた。手足は拘束されたままだし、背後から首筋に刃物のような冷たくて硬い感触のものを当てられていたため、夏樹は抵抗することができなかった。  唯一、助けを呼べるチャンスだったかもしれないのに、こんな状況になってから、どうして山路に助けを求めなかったのかと後悔ばかりが押し寄せてくる。 (あの人、何で今ごろこんなことをしたんだ?)  今のような状況に陥れた人物を夏樹は知っていた。  男とはお互いに面識はあったし、会話をしたこともある。だが、ここ最近、特に交流などはなかったはずだ。  夏樹自身、彼の存在については忘れかけていたのに。  夏樹がベッドの上で色々と考えを巡らせていると、静かにドアを開ける音と、誰かが入ってくる気配がした。 「…………」  目隠しの内側でぎゅっと目を瞑る。  緊張で体を固くさせたまま、夏樹は近づく気配に、唯一自由のきく耳をそばだてた。 (――あれ?)  近づく気配と足音が複数だ。今朝までは、例の男一人だったので、夏樹はてっきり彼の単独行動だと思っていた。仲間がいたなんて予想外だ。  何人かいるうちの一人が、夏樹の横たわっているベッドに腰かけた。ベッドが軋む僅かな音がして、マットレスから人の動く振動が夏樹に伝わってくる。 (何? 何なんだよ、あの人一人じゃなかったのかよ)  夏樹も一応、男だ。たとえ自分よりも大柄な相手でも、一人なら何とかなるかもしれないと思っていた。だが相手が複数なら話は別だ。  隙をついて逃げ出すこともほとんど不可能な状況に、夏樹の頭の中は真っ白になってしまった。
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