17 暗転

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「――ん? どうした?」 「んーっ、んーっ」 「何だ、何かあるのか?」  夏樹の必死な様子に、男が噛ませていた猿ぐつわを外した。 「――――っ」 「大きな声は出すなよ」  大声で助けを呼ぼうと大きく息を吸った夏樹の首に、刃物のような感触が当てられる。夏樹は息を吸い込んだまま、動きを止めた。 「……トイレ、に、行かせて……ください」  夏樹はトイレに行きたいとだけ、ようよう絞り出すように言った。 「トイレだって?」  先程出ていった男が夏樹の状況を聞かされ、戸惑ったような声をあげた。用心のためか、わざと声音を変えており相変わらず誰なのかはわからない。  男は夏樹の頭を冷やすために氷を取りに行っていたようだ。今、夏樹の頭には彼の手によって氷が当てられている。  拘束を解いても大丈夫なのか、男から逡巡している気配が伝わってきたため、夏樹はさもトイレに行きたくて堪らないように、モジモジと腰を動かした。 「早く連れて行った方がいいんじゃないか?」 「…………」  夏樹のことを拉致した方の男が、夏樹の様子を見て心配そうに声をかける。  これは夏樹にとって手足を自由にできるかもしれないチャンスだ。これを逃せば今度はいつそんなチャンスが訪れるかも分からない。  夏樹は本当に切羽詰まったように体を捩った。 「あの……トイレ……お願い」  夏樹の必死の願いが通じたのか、男のため息とともに夏樹の足の拘束が解かれる。 「変な気は起こすな」  声音は変えていても凄みのある低い声に、夏樹は首を何度も縦に振った。  足の拘束は解かれたが、手の自由は奪われたままだ。また、足が自由になった夏樹が逃げないようにだろう、今度は腰にロープが巻かれた。 「あの……」 「どうした? すぐ正面がトイレのドアだ」  閉じ込められていた部屋から出され、トイレまで連れて来られたのはいいが、目隠しをされた上に後ろ手で両手を縛られた状態で、どうやって用を足せというのか。 「ああ、そうか」  何かに気づいた男がトイレのドアを開けてくれた。 「逃げようとして無駄だから。ドアは少し開けておく」  男がそう言って夏樹の腰に繋いだロープを引っ張る。 「…………」 「行かないのか?」 「いえ、あの……手」 「手?」 「手が、これじゃ……できない、です」 「……」
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