17 暗転

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「……はあ、はあ」  今は一体、何時頃だろうか。人気のない住宅地を夏樹は裸足で走っていた。  まだ明かりの点いている家が何軒かあることから、深夜ではないようだ。明かりの点いている家へ助けを呼ぶことも出来たが、とにかく逃げ出すことしか頭になかった夏樹は無我夢中で走った。  幸いスーツの上着と鞄は、閉じ込められていた部屋に一緒に置いてあったため持ち出すことができたが、慌てて外へ飛び出したので足元は素足のままだ。 「――っ」  ロープを焼き切る際に負った、手首と足首の火傷がヒリヒリと痛む。  刺すような痛みに、足を止めて踞りたくもなったが、いつ青嶋が夏樹のいないことに気づくやもしれない。夏樹は痛みに顔を歪めながらも決して足を止めなかった。  どのくらい走っただろう、辺りの景色に見覚えがある場所へとさしかかった。 (確か、この先に公園があったはずだ)  桜が丘学院へ営業で回った時に、何度か前を通ったことがある。やはり夏樹が閉じ込められていたのは青嶋の自宅だったらしい。  背後を振り返り、青嶋が追ってきていないのを確認すると、やっと夏樹の歩調がゆっくりとしたものになる。  息も切れてきたし手足も痛む。夏樹は間もなく見えてきた児童公園で、少し休むことにした。 「疲れた……痛い……」  一番人目につきにくい場所のベンチへと腰を下ろすと、自然とため息が漏れる。  徐々に痛みが強くなる手首を外灯の明かりに照らしてみる。すると、ライターの火に炙られた場所が赤く腫れて水疱ができていた。 「うわ……水ぶくれになってるよ」  ズボンの裾を捲ってみると、足首も同じような状態になっている。 「今からでも冷やした方がいいかな」  どこかに水道はないかと、夏樹が辺りを見渡していると、鞄の中から携帯の着信音が聞こえた。  もしかして夏樹がいないことに気づいた青嶋が、電話をかけてきたのだろうか。夏樹の体が緊張で強張る。
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