18 遠距離

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 展示会の一日目、KONNOのブースはなかなかの盛況ぶりだった。  なかでも久志イチオシのリアルどんぐりのキーボードとマウスのセットは、女性を中心に好評で、午前中にしてすでに何件もの注文を受けた。 「結構いい感じだな」  同行した営業の二人が、来場者に商品の案内をしているのを見ながら、久志が言った。  芹澤が久志のことを凄いと思うのはこんな時だ。  試作品が出来上がり初めて芹澤がそれを見たとき、なぜ久志はこんなおもちゃのようなものを作ったんだろうと思った。  夏樹にぴったりだと言って、試作の段階から夏樹をイメージして作らせていたのも見ていたため、その時は遊び半分で仕事をする久志に頭を抱えた。  だが実際、市場に出してみるとこの人気ぶりだ。  久志の予想していたアウトドア派の人たちとは客層は異なるが、この分だと午後からの集客もかなり期待できる。 「山下くん、交替しましょうか。私と専務が替わりますから、お二人は休憩に行ってください」  ちょうど客足が途切れたところで芹澤が営業の二人に声をかける。 「ありがとうございます」 「すみません」 「そろそろお昼になりますし、食事もとってきてください」 「はい」  営業の二人に替わって、KONNOのブースに来た久志が芹澤の隣に立つ。 「その後の動きはどうだ?」 「特に目立った動きはないですね。もともとが単独で動いていたようですし、今は松本くんと接触するのも難しい状況ですから」 「……まあ、そうだな」 「大丈夫だとは思いますが、一応、気はつけておきます」  久志が会場の中をぐるりと見渡した。  夏樹のことをつけまわしている相手を早く捕まえて、夏樹を安心させてやりたい。  相手の正体もわかっている。だが、決定的な証拠を掴んでいないため久志も動き様がないのだ。  思い通りにいかなくて、もどかしい思いがつい顔に出てしまう。 「専務、顔が怖いですよ」  険しい顔をしている久志は、隣に立つ芹澤から、お客様相手なのだからもっとにこやかにと注意を受けてしまった。 「芳美!」 「…………」  聞き覚えのある声に、今度は芹澤が久志以上に不機嫌そうに顔を歪めた。 「いやあ、なかなかの人出だ。俺も色々と見て回ってきたが、今後の制作活動の参考にもなったし、とても勉強になった――紺野さん、今回は同行させていただき、ありがとうございます」  
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