19 お兄さんな気分

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「理央、くん?」  思いつめたような表情の理央に、夏樹がどうしたの? と首を傾げる。 「あの……っ、夏樹さん」  夏樹の手を握る理央の手に力が入る。 「理央くん。ね? ほら、落ち着いて」  子供に言い聞かせるように、ゆっくりとそう言うと夏樹は理央の手をやんわりと外した。 「大丈夫? 気分でも悪い?」 「……」  相変わらず硬い表情のままの理央は首を横に振るだけだ。  夏樹の前ではいつもにこやかにしていた。だからこんなことは初めてで、夏樹もどう接したらいいのか戸惑ってしまう。  間もなく夏樹たちのテーブルへオムライスとビーフシチューが運ばれてきた。皿から柔らかく立ち上る湯気が、気持ちをほっこりと落ち着かせてくれる。 「食べようか?」  理央も少し落ち着いたのだろう。夏樹がそう言うと、こくりと頷きスプーンを取った。 「美味しい?」  オムライスをひと口食べた理央に夏樹が話しかける。 「――美味しいです」 「よかった。ビーフシチューも美味しいんだよ、ひと口食べてみる?」  夏樹が自分の皿を理央の前に差し出すと、理央は一瞬目を見開き、それから小さく頷くと夏樹の皿からビーフシチューをひと口食べた。 「ね? 美味しいだろ?」 「はい。すごく……すごく、美味しい」  理央の口元へ笑みが浮かぶ。  美味しい食べ物って、どんなに頑なになった心も柔らかく溶かすものなんだなあと、美味しそうにオムライスを食べる理央を見ながら夏樹もビーフシチューを口に運んだ。 「ごちそうさまでした」  店を出たところで理央がぺこりと頭を下げた。 「いいよ。高級な店でもなかったし」 「でも、すごく美味しかったです……それに……」 「――?」  真剣な顔をした理央が夏樹のことをじっと見つめる。 「えっと、あっちに座ろうか」 「……」  駅前の待ち合わせにもよく使われている、ベンチが並んだ場所を夏樹が指差すと、理央は黙ったまま頷き、ひとりベンチの方へと歩いて行った。  見かけによらすなかなか足が速い。あっという間にベンチに着いた理央が夏樹のことを見ている。  夏樹は慌てて理央のところへ駆け寄った。    
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