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理央に飛びつかれて、夏樹はベンチの上でランスを崩した。体を支えようとベンチの座面に片手をついたが、足と同じようになぜか腕にも力が入らない。
夏樹は理央に抱きつかれたままベンチに倒れ込んでしまった。
「夏樹さん、大丈夫?」
ベンチの座面に横たわった夏樹をすぐ側から理央が見下ろしている。
「だ、大丈夫……じゃ、ないかも。どうしたのかな、腕にも力が入らないんだけど」
「おかしいですね。足だけじゃなくて腕も動かないなんて」
「理央くん?」
クスクスと笑いながら、理央が夏樹の首筋に顔を埋めた。
「夏樹さん、ごめんなさい。夏樹さんの足とか手が動かないのは僕のせいなんだ」
「えっ?」
「カフェオレとかビーフシチューとかに薬、入れちゃった」
「理央くん!?」
「一度に混ぜたら味が変わっちゃうかと思って、少しずつ分けて入れたんだ」
「な、んで……んあっ」
夏樹の首筋に理央の舌先が触れ、それは耳の後ろから首の付け根に向かってゆっくりと滑り降りた。
「おれの、こと……だ、まし、た?」
「嘘はついてないよ。男の人が好きなのも、夏樹さんのことが好きなのも本当。彼の気持ちもわかるなあ。僕も夏樹さんのこと欲しくなっちゃった」
「り、おく……」
「効いてきたみたいだね」
「…………」
夏樹は一生懸命に目を見開いたが、至近距離にあるはずの理央の顔はぼやけ、辺りは薄墨をかけたように徐々に暗くなっていく。色々と理央に言いたいことや聞きたいことがあるのに、声も出ない。
やがて夏樹は意識を手放した。
「夏樹さん、寝ちゃった?」
「…………」
「なんだ。つまんない、もうちょっと夏樹さんと遊びたかったのに」
理央は夏樹の髪をそっと撫でながら携帯を取り出した。
「――あ、青嶋のおじさま? 僕、理央だけど。渉さんから聞いてるよね」
『……』
「うん、そうだよ。駅の近くのベンチにいるんだ。迎えに来てよ」
『……』
「ありがと。じゃあ、待ってるね。おじさま」
にっこりと笑いながら理央は通話を切った。
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