20 行方不明

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 一週間の出張が終わった。  今回の目玉だった、どんぐりマウスと丸太キーボードは久志の予想以上の人気で、KONNOのブースには常に人だかりが出来ていた。  あまりの人気ぶりから、これまで取引のなかった複数の企業から、ぜひ話を聞かせてほしいと打診があったため、展示会終了後も各企業との打ち合わせなどで予定よりも大幅に出張期間が延長してしまった。 「お疲れさまでした。これ、松本くんに渡してください」  駅の改札を出たところで、芹澤が久志に白い紙袋を差し出した。 「これは?」 「松本くんにお土産です。出張先にあったお店限定のコーヒーゼリーです」 「――何? コーヒーゼリーなんていつ買ったんだ? そんな暇なかったはずだが」 「出発前から予約していましたので」 「は? 予約って、どういうことだ」 「ここのお店、人気があるので予約しないと買えないんですよ。今だと、だいたい二か月待ちですね」 「二か月……って、そんなに待たないと買えないものが、なぜここにあるんだ?」 「展示会の日程がわかった時点で予約しましたので」  唖然としている久志に芹澤は平然とした調子で答えた。  恋人である久志を差し置いて、夏樹にと大好物のコーヒーゼリーを用意する芹澤に、何となく久志は敗北感を感じた。  たが、コーヒーゼリーに罪はないし、夏樹もきっと喜ぶはずだ。  夏樹のために何も用意していなかった久志は、芹澤の用意した夏樹へのお土産をとりあえず受け取ることにした。夏樹に渡すときに自分からだと言えば問題ない。 「……わかった。それじゃあ、私から渡しておく」 「久志さん、ちゃんと芹澤からだと言ってくださいよ。まさかとは思いますが、ご自分が松本くんのために用意したなんて言われないですよね?」 「なっ……ま、まさか、そんなこと言うわけないじゃないか」 「それを聴いて安心しました。それではこれを、松本くんにくれぐれもよろしくお願いします」 「……」  なんとも気まずい気持ちで、久志はコーヒーゼリーの入った紙袋を受け取った。
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