20 行方不明

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 自宅マンションへ向かうタクシーの中で、久志は浮き立つ気持ちを懸命に抑えていた。  夏樹のための着ぐるみの制作や、思いかけず長期になってしまった出張などで、なかなか夏樹とゆっくり過ごすことができなかった。  仕事も一段落したし、これでやっと愛しい恋人と甘い時間をともにできる。  これからのことを考えると、完成した着ぐるみの入った箱を持つ久志の手に自然と力が入る。 (早く、夏樹に着せてみたい……)  着ぐるみは素晴らしい完成度で、久志の納得のいく出来になった。野添の技術を見込み、彼に着ぐるみの制作を依頼して本当に良かった。さすがその筋で有名なだけはあった。  これを見たら夏樹は一体、どんな反応をするだろうか。 『えっ!? これ……もしかして俺にですか? 開けてもいいですか?』  久志から着ぐるみ入りの箱を受け取った夏樹が、嬉しさに目を輝かせる。 『君のために用意したんだ。気に入ってくれるといいのだが』 『……そんな……久志さんが俺のために用意してくれたものを気に入らないなんて、そんなことあるわけないじゃないですか』  頬を染め、恥ずかしそうに久志から目を逸らす夏樹。 『夏樹』 『久志さん……あっ』  箱を開けようとしていた夏樹の唇を久志が奪う。 「――――違うな」 「えっ? お客さん、道が違ってましたか?」  ちょうど信号が赤になり、タクシーの運転手が焦ったように後部座席の方へ振り向いた。 「いや、こっちの話だ。そのまま真っ直ぐ行ってもらって大丈夫だ」  間もなく信号は青に変わり、タクシーが走り出す。 (これではダメだ。いくら嬉しそうにしている夏樹が可愛らしいからといって、すぐに私が手を出したら、着ぐるみを箱から出すタイミングを失ってしまう)  久志は夏樹の喜ぶ顔が見たいのだ。  確かに長いこと夏樹に触れていないし、きっと夏樹も久志の感触を欲しているだろうが、直接的な触れ合いよりもまず心の触れ合いが最優先だ。  ここは久志が大人の余裕を見せなければならない。
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