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「どういうことだ?」
マンションの出口で待っていた車の後部座席に乗り込むなり、久志は助手席に座る芹澤へ詰め寄った。
「念のため松本くんの靴にGPSを仕込んでおいたんですが、昨日久志さんのマンションから出たきり、ある場所から動いていません。誰かに連れ去られた可能性があります」
「昨日から? 昨日はまだ出張中であいつも私たちと一緒にいたじゃないか」
「どうやら共犯者がいるようですね」
共犯者という言葉を聞いた途端、久志の顔色が変わる。
「――場所は? 夏樹は今どこにいるんだ?」
「今からそこに向かいます。松本の発信機のデータをカーナビに飛ばしてますので――ちなみにこれは芹澤さんがシステムを作ったんですよ」
それまで運転席で沈黙を守っていた山路が自慢げに後ろを振り向いた。
「凄いと思いませんか? 仕事の合間にちゃちゃっと仕上げてしまうあたり、流石は芹澤さんというか……」
「いいから早く出してくれ」
目を輝かせて、どれだけ芹澤が素晴らしいかを山路が力説する。放っておいたらいつまでも喋っていそうな雰囲気に、久志が苛立たしげに山路の話を遮った。
「山路くん」
「あっ、すみません! すぐに出発します!」
芹澤からも咎められて、山路は慌ててアクセルを踏んだ。
「松本くんがいると思われる場所ですが、それほど離れた所ではないようです。ただ、昨日から全く動いていないというのが気になりますね」
「芹澤、もしかしてずっと夏樹の動きを見張っていたのか?」
「まさか。いくら私でも出張中のあのスケジュールの中、松本くんの動きまでチェックするなんて不可能です」
そう言いながら、芹澤が運転席の方をちらりと見る。
「彼――山路くんに頼みました」
視線を感じた山路が、助手席へ座る芹澤の方へ顔を向けにこりと笑った。
「山路くん、ちゃんと前を向いて運転してください」
「了解です」
芹澤から注意されたのに、なぜか山路は嬉しそうに前に向き直る。
「――ところで、共犯者というのは?」
「そうでした。今のところ怪しい人物が一名。ですが松本くんも一応、成人男性ですし、連れ去るとなると他にも協力した人物がいる可能性があります」
「…………」
「私の方でも他に手は打っていますので、とりあえず急ぎましょう」
久志らを乗せた車はナビの点滅する場所へと走った。
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