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「山下……なん、で……?」
なぜ山下が理央の家にいるのかと、呆然とした様子で夏樹が呟いた。
「そうか、渉さんって……山下のことだったんだ……」
「やっと思い出してくれた? ちゃんとフルネームは教えてあげてたのにね。今村くんのことは名前で呼ぶのに、僕のことはいつまで経っても山下のままだったから、覚えてくれてないんだと思ってたよ」
「もう、渉さん……」
夏樹にばかり話しかける山下の首に、理央が拗ねたように縋りつきキスをねだる。
「…………んっ」
「――えっ!? 理央くん?」
目の前の男に腰を抱かれ、いやらしい水音をたてながら、うっとりとした様子で山下と舌を絡めている少年は本当に理央なのか。
少なくとも夏樹の知っている、あのおとなしい少年ではないのは確かだ。
「理央くん……やめ……」
「ん……ふ、っ」
ますます深まる二人のキスを見ていられなくなり、夏樹はぎゅっと固く目を瞑り、渾身の力で両手を上げると自分の顔を覆った。
「――あ……渉さん」
「理央、もう良いだろう? 松本くんがひとりぼっちで寂しそうにしているよ」
「へっ!?」
突然山下から話を振られた夏樹は何と答えていいのかもわからず、両手で顔を隠したまま、すっ頓狂な声をあげた。
山下に促された理央が夏樹の側へ近寄る。夏樹は自分に近づいてくる理央の気配に、僅かに開けた指の隙間から目を覗かせた。
「夏樹さん」
「う……わあっ!」
夏樹の眼前、ほんの数センチのところに理央の顔があり、予想外の近さに夏樹は思わず悲鳴をあげてしまった。
ベッドの上で理央にのしかかられ、慌てる夏樹の様子を山下が愉しそうに眺めている。
「いやだなあ、夏樹さん。そんなに驚かないでよ」
「り……理央、くん? ちょ、待って……待ちなさい……っ」
「でもそんな夏樹さんも可愛い」
「――ひ……っ」
顔を覆った夏樹の手の甲に理央が唇を寄せた。
理央に飲まされた薬の影響で体に力が入らない夏樹に、抵抗らしい抵抗などできるはずもなく、ただ理央にされるがままだ。
「ほら理央、これを」
夏樹の手に繰り返しキスをしている理央へ、山下が小さなカプセル状のものを手渡した。
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