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「おい、まだか? まだ着かないのか?」
後部座席に座る久志が、運転席の山路へ声をかけた。
「久志さん、さっきも言ったと思いますが、あと十分もすれば到着しますから。ちょっと落ち着いてください」
「だが芹澤……」
「三分も経たないうちに、そう何度も声をかけられたら山路が運転に集中できません。到着が遅れても良いんですか?」
助手席から芹澤が久志へ咎めるような目を向けた。
「…………」
「分かったなら、少し静かにしてください。あ、山路くん、そこの信号を左に」
「はい」
芹澤の指示で、三人を乗せた車が左に曲がる。
山路も急いでいたようで、あまり減速せずに車が左折したため、久志の体も大きく左に傾いた。
「おっ……と」
座席の上でバランスをとりながら、久志が膝に乗せた箱を支える。
「山路くん、急いでもらうのは有難いですが、安全運転でお願いします。到着するまでに事故でも起こしたらどうするんですか」
「すっ、すみません!」
芹澤から注意されて余計に焦ってしまったのか、山路が頭を下げると同時にガクンと大きく車が揺れた。
「ちょ、山路くん! 私を殺す気ですかっ!?」
「うわっ、すみません! すみません!」
山路が芹澤に謝る度に車が揺れる。
「……ちょっとそこのコンビニで、一度車を停めてくれ」
このままだと夏樹の元へたどり着くまでに、車がどうにかなってしまうと判断した久志が、ちょうど前方に見えたコンビニに入るよう山路へ指示を出した。
ガクンガクンと小刻みに揺れながら車がコンビニへ向かう。
無事に駐車スペースに車が停まったところで、車内に誰のものともつかない安堵のため息が漏れた。
「山路くん」
「…………はい……」
芹澤の声に、運転席の山路が大きな体を小さく丸める。
「ここからは私が運転をしますから、あなたは助手席でおとなしくしていてください」
「……はい」
すっかり項垂れてしまった山路は、おとなしく芹澤と座席を交替した。
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