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芹澤の運転で滑るように車が車道へ出る。
ほとんど揺れを感じさせない芹澤の運転に、久志は背もたれに体を預け、ホッと息を吐いた。
同じ車なのに、運転手が違うだけでこうも乗り心地が違うものなのか。芹澤の運転に慣れていた久志は、改めて芹澤の運転技術を見直した。
「山路くん」
「はいっ!」
「目的地に到着したら頼みますよ。相手は複数の可能性がありますし、私は力には自信がありません。山路くんが頼りですから」
「――芹澤さん」
山路は目許を潤ませながら、感激したようにハンドルを握る芹澤を見つめた。
「おっ、俺、頑張ります! ちゃんと芹澤さんのことを守り抜いてみせますっ!」
尊敬する芹澤から期待を寄せられ、山路の頭の中では本来の目的である、夏樹のことを救出しに向かうという重要事項はすっかり隅に追いやられてしまっていた。
「ところで久志さん、その箱は……」
芹澤がバックミラー越しに久志の顔を見た。
「ああ、これか。慌てていたので、そのまま持ってきてしまった」
「…………」
例の着ぐるみの入った箱を久志が大切そうに抱え直す。
芹澤は呆れを通り越して、かける言葉も思いつかず、黙って運転に集中するふりをした。
「専務、その箱何が入ってるんですか?」
二人のやり取りを見ていた山路が、興味津々な様子で後部座席の方へと顔を向けた。
「これか? これは夏樹へのプレゼントだ」
「はあ、松本にですか……それなら無事に松本を助け出して、そのプレゼントを渡さないといけないですね」
「そうだな」
夏樹を無事に救い出して、この着ぐるみを着せなければと、かなり方向性は怪しいが、久志は夏樹救出に向けて気持ちを引き締めた。
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