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コンビニを出てから十分も経たないうちに、芹澤の運転する車は幹線道路から閑静な住宅街へと入っていた。
辺りにこれといった店舗もなく、また時間も遅くなっていたためか外を歩く人影はない。車はそのまま住宅街を走り、近くにあった公園の隣にある空き地に停車した。
「ここからは歩きます」
「夏樹のいる場所はここから遠いのか?」
「いえ、それほど離れてはいませんが、車だと目立ちますので」
携帯からも夏樹の靴に付けた発信機の情報がわかるようになっているらしく、芹澤が携帯の画面を確認しながら先頭を歩く。
「――さすが、芹澤さん。かっこいいなぁ……専務もそう思いませんか?」
芹澤の後に続きながら、山路がほれぼれとした視線を芹澤に向けている。
久志にしてみれば、これぐらいのこと自分の秘書を務めるならできて当然だとばかり思っていたが、芹澤は特別なのだろうか。
キラキラと目を輝かせながら芹澤の背中を見つめている山路に、「それくらい秘書ならできて当然だ」とは何となく言いづらくなった久志は「そうだな」と、とりあえず山路に話を合わせた。
ちょっと抜けているところはあるが、山路も一応、秘書課の一員だ。
「芹澤さんって凄いんですよ。この間、領収書の記入の仕方がちょっと間違っていたからって文句を行ってきた経理課長を、ひと言で黙らせたんです! あの気難しい経理課長をですよ! あの時の芹澤さん、ほんとかっこよかった……」
(まあ、芹澤はほとんどの役職の弱みを掴んでいるからな)
「それに……個人的にはちょっと嫌ですけど、芹澤さんって女性からすごくモテるんです! だけどそんなことちっとも鼻にかけないし、だから他部所の男性社員からも人気があるんですよね……」
そう言って山路はちょっと切なそうに、前を歩く芹澤の方を見た。
そんな山路の肩を久志が軽く叩く。
「――はい?」
「大丈夫だ。芹澤はあまり女性に興味はない――どちらかと言うと……」
「ちょっと、二人とも私語が多すぎますよ。久志さんも余計なことは言わないでください」
振り向いた芹澤が二人を睨みつけた。
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