22 こんな時こそ冷静になりましょう

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「す、すみませんっ!」 「それと、少し声のトーンを落とすように」 「はいっ! ……あ、はい……」  芹澤のひと睨みで久志と山路はすっかりおとなしくなり、余計なおしゃべりもせずに芹澤の後をついていった。 「見えてきました。あの家です」  しばらく歩いたところで、携帯の画面を確認しながら芹澤が一軒の家を指差した。 「あそこに夏樹がいるのか?」 「恐らく。靴と松本くん本人とが、別の場所にあるのでなければ、松本くんはあの家にいます」 「普通の家みたいだが」  そう言って、久志が数メートル先にある一軒家へ目を向ける。  家には誰かいるようで、一階とニ階のひと部屋に明かりがついていた。  あそこに夏樹がいる。  そう思うといてもたってもいられず、久志は目の前の一軒家を目指して歩を進めた。 「ちょっと待ってください」  久志のことを芹澤が引き止める。 「何だ? 早く行かないと。夏樹に何かあったらどうするんだ」 「わかっています。ですが、まず中の様子を見てみないと……それと今回のことで、ちょっと連絡を取った人がいまして……あ、いらっしゃいました」 「――――?」  久志たちから少し離れた場所で静かに止まったタクシーから、男性が一人降りてきた。芹澤は顔見知りのようだが、久志には見覚えがない。  男性は小さく手を振りながら近寄ってくると、三人の前で立ち止まった。 「お久しぶりです。お忙しいのに、すみませんでした」 「いや、こちらこそうちの息子が迷惑をかけてしまって申し訳ない――そちらは、もしかして久志くんか?」 「え? あ、はい」 「覚えていないか。まあ、まだ久志くんは三つか四つだったし……」 「――山下の……おじさん?」  穏やかに笑う男性の顔を前にした久志の口から、幼い頃、よく自宅に訪ねてきていた父親の友人の名前がこぼれ出た。 「山下……って、え? 息子!?」 「本当に申し訳ない。君のお父さんにはとても世話になったというのに、うちの愚息が大変なことをしでかしてしまった」  そう言って山下の父は久志に深々と頭を下げた。 「さあ、お二人ともその辺で。山路くん、様子はどうでしたか?」  芹澤の指示で、件の家の様子を窺いに行っていた山路が戻ってきた。
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