968人が本棚に入れています
本棚に追加
/219ページ
「す、すみませんっ!」
「それと、少し声のトーンを落とすように」
「はいっ! ……あ、はい……」
芹澤のひと睨みで久志と山路はすっかりおとなしくなり、余計なおしゃべりもせずに芹澤の後をついていった。
「見えてきました。あの家です」
しばらく歩いたところで、携帯の画面を確認しながら芹澤が一軒の家を指差した。
「あそこに夏樹がいるのか?」
「恐らく。靴と松本くん本人とが、別の場所にあるのでなければ、松本くんはあの家にいます」
「普通の家みたいだが」
そう言って、久志が数メートル先にある一軒家へ目を向ける。
家には誰かいるようで、一階とニ階のひと部屋に明かりがついていた。
あそこに夏樹がいる。
そう思うといてもたってもいられず、久志は目の前の一軒家を目指して歩を進めた。
「ちょっと待ってください」
久志のことを芹澤が引き止める。
「何だ? 早く行かないと。夏樹に何かあったらどうするんだ」
「わかっています。ですが、まず中の様子を見てみないと……それと今回のことで、ちょっと連絡を取った人がいまして……あ、いらっしゃいました」
「――――?」
久志たちから少し離れた場所で静かに止まったタクシーから、男性が一人降りてきた。芹澤は顔見知りのようだが、久志には見覚えがない。
男性は小さく手を振りながら近寄ってくると、三人の前で立ち止まった。
「お久しぶりです。お忙しいのに、すみませんでした」
「いや、こちらこそうちの息子が迷惑をかけてしまって申し訳ない――そちらは、もしかして久志くんか?」
「え? あ、はい」
「覚えていないか。まあ、まだ久志くんは三つか四つだったし……」
「――山下の……おじさん?」
穏やかに笑う男性の顔を前にした久志の口から、幼い頃、よく自宅に訪ねてきていた父親の友人の名前がこぼれ出た。
「山下……って、え? 息子!?」
「本当に申し訳ない。君のお父さんにはとても世話になったというのに、うちの愚息が大変なことをしでかしてしまった」
そう言って山下の父は久志に深々と頭を下げた。
「さあ、お二人ともその辺で。山路くん、様子はどうでしたか?」
芹澤の指示で、件の家の様子を窺いに行っていた山路が戻ってきた。
最初のコメントを投稿しよう!