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「一階にはいないようでした。いるとしたら二階かもしれません。松本もですが、一階には今の所、人の気配はありませんでした」
「そうですか。では一階から入ってみましょうか……」
「玄関の鍵は閉まっていましたが、リビングの窓は鍵がかかっていなかったので、そこからなら入れそうですよ」
一行は辺りの様子を窺いながら、家の敷地へ足を踏み入れた。
「久志くん、息子のことは私に任せてくれないか? 私はこれまで息子を甘やかせ過ぎたのかもしれない……今更だが、これを機会に息子との関係を考え直してみるよ」
「山下さん……」
息子と毅然とした態度で向かい合おうと決心した父親の目。
その目の強い光に、山下のことは彼に任せて大丈夫だと久志は思った。
「それじゃあ、松本のことは専務にお願いします! 雑魚は俺に任せてください!」
「山路くん、無理はしないでください。ケガでもしたら大変ですから」
心配そうに言う芹澤へ山路が「心配しなくても大丈夫ですよ」と、白い歯を見せて笑いかける。
「だっ、誰が心配なんてしていますか! 君がケガでもしたら、君の分の仕事が私に回ってくるじゃないですか。私はそれが嫌なんです」
「――そうですね。気をつけます」
「わかれば良いんです」
それきり芹澤は何も言わなくなったが、何故だか山路は嬉しそうだ。
「ここか?」
一足先に家へと近づいていた久志が、庭に面したリビングの窓に手をかけた。そのままそっと手を横へ滑らせると、山路の言った通り鍵は開いており、静かに窓が開いた。
「誰もいないな」
念のため体を低くしながら、久志が辺りの様子を窺う。
「……久志さん」
「何だ?」
「それ、持ってこられたんですか?」
久志が大事そうに抱えている箱を芹澤が指差した。
「あ? ああ……慌てていたのでつい持ってきてしまった」
「先程も同じようなことを言ってましたよね」
「そうだったか?」
心なし久志の目が宙を泳いでいる。
抜かりのない芹澤が、そんな久志のちょっとした動向を見逃すはずもなく、ため息をひとつつくと「もういいです。好きにされてください」と呟いた。
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