22 こんな時こそ冷静になりましょう

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 リビングを出るとすぐに二階へと続く階段があり、今度は山路を先頭に、四人は足音を忍ばせ階段を上った。  階段を上がった先には、踊り場を挟んで左右にドアがある。  夏樹がいるのはどちらの部屋だろうかと久志は一瞬考えたが、薄く開いた左側のドアから話し声が聞こえたため、久志の視線は左側のドアへと注がれた。 「こっちみたいです」  声を潜めた山路が左側のドアを指差す。  あのドアの向こうに夏樹がいる。そう思うとじっとなどしていられない。  久志はドアの隙間から中の様子を窺う山路を押し退けると、制止する芹澤のことなど気にも留めず、勢いよくドアを開けた。  勢い込んでドアを開け、そして中の様子を見た久志が息を飲んだ。 「――夏樹?」  ベッドの上に横たわっている夏樹のことを、見たことのない少年が膝立ちで跨がっている。  夏樹は具合が悪いのか、ろくな抵抗もせず呆然とした様子で少年のことを眺めていた。 「えっ!? 専務? どうしてここが……」  夏樹と少年のことを、ベッドの傍らで見ていた男が振り向き、目を瞠った。 「山下……貴様……」  山下と目が合った久志が、ぎゅっと拳を握った。あまりに力が入ったため、指先が白くなる。  今にも山下に飛び掛かろうとしたその時、久志の背後から誰かが飛び出した。 「……渉ちゃん!!」 「パパ!?」 「渉ちゃん……何てこと……渉ちゃんが不良に……」 「ち、違うんだパパ! これは、あの……」 「あんなに良い子だった渉ちゃんが……パパが、パパが渉ちゃんのことを放ったらかしにしてたのがいけなかったのか?」  我が子のやっていることを目の当たりにして嘆く父と、それを見て狼狽える息子。 「――芹澤」  振り上げた拳の持って行き場を失った久志が、芹澤の方を振り返った。 「久志さん、親子関係にも色々とあるんです。それよりも松本くんを」 「そうだった! 夏樹!」  ベッドに横たわる夏樹の元へ久志が駆け寄る。  鬼気迫る久志の様子に気圧されるように、少年――理央はベッドから降りた。 「おっと、君はまだここにいてください。色々と聞きたいことがありますので」 「――――っ」  隙をついて逃げ出そうとした理央の腕を芹澤が掴む。 「夏樹、夏樹っ!」  久志が何度も夏樹の名前を呼ぶが、意識が朦朧としているのか、夏樹は久志の呼びかけに応えない。
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