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「おい、夏樹っ! 俺が分からないのか? 久志だ、君の恋人だ!」
久志は夏樹の頬を両手で包み、顔を覗き込んだ。
「……ひさ……さん?」
「そうだ、久志だ。大丈夫か? 気分は?」
「だいじょ、ぶ」
久志の問いかけに夏樹が僅かに頭を振った。
「ちょっと君、松本くんに何をしたんですか?」
芹澤が眉根を寄せながら理央の腕を持ち上げ、問い詰める。
「…………」
「黙っていないで答えなさい! 何をしたんですか!?」
「せりざわさん……おれ、だいじょぶ……だから、りおくん」
久志に支えられ、ベッドの上で体を起こした夏樹が理央に向かって微笑んだ。
「りおくん」
「……夏樹さん、う……ごめんなさい……っ」
「うん」
ベッドに縋りつき、嗚咽する理央の頭を夏樹がそっと撫でる。
二人の様子をしばらく見守っていた久志だが、夏樹の体を支えながら訝しげな顔をした。
「夏樹、熱があるんじゃないか?」
そう言いながら久志が夏樹の額に手のひらを当てた。
熱のせいだろうか、目が潤み、僅かに顔が火照っている。
「──んっ」
「すこし熱いな」
「顔も赤いですね。松本くん、頭は痛くないですか? 寒気は?」
夏樹はベッドの上で久志に体を預けたまま、弱々しく首を横に振った。本人は大丈夫だと言っているが、どう見ても具合が良いようには見えない。
ベッドの側に膝をついて上掛けを着せ直しながら、芹澤が顔色を確かめるように夏樹に顔を寄せた。
「風邪でしょうか。解熱剤ならありますが……」
「すぐに持ってこい!」
「車に置いてありますので、取りに行ってきます」
芹澤が解熱剤を取りに行くために立ち上がる。
「――――風邪じゃないです」
理央がうつ向いたままポツリと呟いた。
「え?」
「僕が入れた薬が効いてきたんだと……だから、他の薬とか飲まない方がいいです」
「薬って、君、松本くんに何を飲ませたんですか!?」
「あの……きついやつじゃないから……僕も渉さんと何度か使ったことがあるし……」
理央が山下の方を上目使いでちらりと見た。
「山下くん、どういうことですか!?」
「渉ちゃん!」
父親から羽交い絞めにされて必死で抵抗していた山下だったが、鬼の形相の芹澤に睨みつけられると、ぎくりと体を竦ませ見る間におとなしくなった。
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