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久志の言葉に芹澤が一瞬動きを止めた。
「知ってるんだぞ、芹澤。お前、山路の前では非力な振りをしているだろう!」
「何を言われているんですか? 意味がわからないんですが」
「意味がって、お前山路が……ぐっ」
すっと表情をなくした芹澤が久志の後ろ襟をキュッと締め上げた。
調子に乗って歯向かう相手を間違えてしまったと、久志は一瞬で自分の過ちに気づいた。
「せっ、せりざ……わ、悪かった……も、やめ」
このままでは落ちてしまうと、久志が芹澤の腕を必死で叩く。
芹澤は、久志が余計なことを言ったと反省しているのを見て取ると、締め上げていた力を緩めた。
「お分かりになればいいです。私は久志さんと違って、仕事に私情を持ち込むような真似はしませんので。山路くんがどうとか、余計なことを言わないでください」
「…………」
「芹澤さん? 俺のこと呼びました!?」
芹澤が久志に説教をしていると、部屋のドアから山路がひょいと顔を出した。
「山路くん、ちょうど良かったです。専務の気分が優れないようなので、部屋の外へお連れしてください」
「分かりました! それと、向こうの部屋でこの男を見つけたんですが、どうしましょうか?」
後ろ手に拘束した青嶋を山路が芹澤の前に差し出す。
「――あなたは」
「三郎ちゃん! あなた、どうしてこんな所にいるのっ!?」
「……義兄さん!? なぜ義兄さんが?」
「渉ちゃんがいけないことをしているって教えてもらったから、叱りにきたのよ――――えっ!? もしかして、三郎ちゃん、あなたまさか……」
うつ向く青嶋の様子から、これ以上ない最悪の状況に思い至った山下父が、よろりと後方によろめいた。
「危ない!」
理央が咄嗟に山下父の背中を支える。
「……あ、ありがとう。理央くん、だったかしら。いい子ね」
「いえ、そんな」
山下父に微笑みかけられ、理央が照れたように頬を染めた。
「あの、すみません、義兄さん……私、渉くんに脅されて、つい……」
「そうだったわ! 三郎ちゃん! 悪い遊びはもうしないって千鶴子と結婚する時に約束したじゃないの!」
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