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このおバカ! と、山下に続き青嶋も山下父から思い切り頭を叩かれ、その場に膝をついた。
「すみません、すみません……義兄さん、許してください……」
薄くなった頭頂部を床に擦りつけるようにして、青嶋が山下父へ許しを請う。
「三郎ちゃん……謝る相手が違うんじゃないの?」
山下父が、ため息をつきながら青嶋の肩へ手を乗せた。顔を覗き込むようにして微笑みかけられ、青嶋が何かに気づいたようにはっと目を瞠る。
「まっ、松本くん! 本当にすまない!」
「青嶋さん……」
今度は夏樹の方へ向けて青嶋は頭を下げた。
父親に近い年齢の青嶋が、土下座をして必死に夏樹へ許しを請う姿は、何だか見ていて居たたまれない。
「あの……もう、いいです。もういいですから、頭を上げてください」
「松本くん!」
ベッドに横たわったまま、力なくそう告げる夏樹の方へ、涙と鼻水でグシャグシャになった青嶋が思わずといった風に駆け寄り、上掛けの端から見えている細い指先へ手を伸ばした。
「汚い手で私の夏樹に触らないでくれないか?」
「紺野くん」
青嶋と夏樹の間に久志が割って入る。
「夏樹が許しても、私は別だ。それ以上夏樹に近づくなら、私にも考えがある」
冷たく言い放つ久志を見て、青嶋の顔色が変わる。
久志の祖父、久蔵(きゅうぞう)の豪傑ぶりは財界では有名で、自分の目的を邪魔する存在を排除するためならば、どんな冷淡な仕打ちも平気でやってのけた。
実際に、そのせいで人生をダメにしてしまった人物を青嶋も知っていた。その祖父と性格がそっくりだと噂されている久志を敵に回すということは、はっきり言って自殺行為だ。
青嶋は出した手を慌てて引っ込め、夏樹から離れた。
「ほら、三郎ちゃん、私と一緒にいらっしゃい。二度と悪いことなんてしたくないって分からせてあげるわ!」
山下父は、気を失ったままの息子と、項垂れている青嶋を引きずりながら部屋から出ていった。
「……あの」
「理央くん、あなたには聞きたいことがあります。私についてきてください。久志さんもですよ!」
山路と理央を連れた芹澤も出ていき、部屋の中には久志と夏樹だけが残った。
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