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「大丈夫か? 熱は?」
「――――ん」
「夏樹」
久志が夏樹の頬に手のひらを当てると、夏樹は気持ちよさそうに久志の手のひらへ頬を擦り寄せた。
おそらく無意識の行動なのだろう。普段の夏樹ならこんな甘え方はまずしない。
「カ、カメラっ! 芹澤!? くそっ、何でこんな大切なときにあいつはいないんだ!」
夏樹が頬を擦り寄せている右手は絶対に動かせない。かといって、利き手ではない左手では携帯を持つ手がブレてしまい、可愛い夏樹の姿を上手く動画に納めることができない。
久志はこの時ほど自分が右利きなのを恨めしいと思ったことはなかった。
「――久志さん」
夏樹が久志の親指の付け根を甘噛みする。
「夏樹? それはわざとなのか? 私が君のことを構ってやれなかったから、その仕返しなのか?」
いくら久志でも、さすがによく知らない他人の家で夏樹にどうこうするなんて出来ない。それくらいの理性はまだ残っている。
だからといって夏樹のことを振り払うこともできず、久志が悶々と自分の理性と戦っていると、今度は久志の親指が夏樹の口に含まれた。
「……ん……っ」
親指の付け根から指先に向かって、ゆっくりと舐め上げるように夏樹の小さな舌が絡みつく。
「ちょ、夏樹。それ以上は止めてくれ。私の理性がもたない」
「ふっ……んむ、んっ」
上目遣いに見上げた夏樹と久志の目が合った。
黒目がちの潤んだ瞳にじっと見つめられ、久志はゾクリと皮膚の内側が粟立つのを自覚した。
このままではマズイと久志が慌てて手を引く。
「――あっ」
口元から離れていく久志の親指を、夏樹が名残惜しそうに目で追った。
半開きの唇は唾液で濡れ、ぽってりとした唇の隙間から赤い舌がちらりと覗いている。
久志は吸い込まれるように夏樹に近づいたが、あと少しで唇同士が触れるところでさっと身を引いた。
「――――あ……」
「夏樹、ダメだ。今ここで君に触れてしまったら、私はもう自分を止める自信がない」
「久志、さん……熱い……奥が……っ」
「……っ」
縋るような目で久志のことを見つめながら、お願い助けてと夏樹が訴えた。
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