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夏樹は今普通の状態ではない。久志への甘えるような言動や、縋るような視線も、おそらく薬のせいだ。
分かってはいるのだが、久志も夏樹とまともに顔を合わせたのは久しぶりだ。
とろけるような目で見つめられたら堪らない。
着ぐるみを着ている姿を見るだけで、抱き潰してしまいたい衝動に駆られ、それを必死で堪えているというのに、その上、子猫のように久志に甘えてくるなんて。
「久志さん、どうしよう……中が……奥が熱くて、むずむずする」
そう言って、着ぐるみ姿の夏樹がベッドの上で腰を捩る。
「な、夏樹? 奥って……?」
久志がごくりと息を飲みながら、恐る恐る尋ねた。
「理央くんに薬を入れられたんです……後ろに」
「――え?」
後ろという言葉に久志の眉が寄る。
「夏樹、後ろとはどういうことだ? 理央くんには薬を飲まされたんじゃなかったのか?」
「あの、薬……というか、カプセルを……後ろに、理央くんが……あっ、ん」
久志に説明している間にも薬の効き目が現れてきたようで、夏樹は顔を火照らせ、小さく声を上げるとベッドの上で体を丸めた。
「おい、大丈夫なのかっ!?」
体を丸めてカタカタと震える様子は尋常ではない。もしかしたら、何か悪い副作用でも出たのではと心配になった久志が夏樹の肩に手を置いた。
「……あっ!」
途端、夏樹がびくりと体を震わせる。
「夏樹?」
「やっ……ん、久志さん、ダメ」
「いや、私はまだ何もしていないが」
何かしても良いのなら、こんなに悶々となどしていない。
「どうしよ……奥が……んっ、かゆい……っ、久志さん」
夏樹は久志の顔を見つめながら、自分の肩に置かれた手をきゅっと握った。それを久志の大きな手がしっかりと握り返す。
「夏樹、少しだけ我慢できるか?」
自分も限界ギリギリ状態の久志が問いかけ、夏樹はそれにコクリと頷いた。
「──あっ!」
小柄な着ぐるみのリスが、ふわりと宙に浮かぶ。
久志から軽々と横抱きにされた夏樹が、久志の首に腕を回した。
「しっかり掴まっていなさい」
「……はい」
不安げな顔をしている夏樹を安心させるよう、久志は余裕のある笑みを夏樹へ向けると、自宅マンションへ帰るため理央の部屋を後にした。
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