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「――ここは?」
「すぐに戻りますので、少し待っていただけますか?」
途中で見つけたコンビニへ入ると、岩永は後ろを振り返りながらシートベルトを外した。
「構わないが……店に入るなら、コーヒーゼリーを買ってきてくれないか? 代金は後で払う」
「コーヒーゼリー、ですか」
「ああ。夏樹の好物なんだ。元気になったら食べさせてやりたい」
着ぐるみ少年は夏樹という名前らしい。
(子供が元気になったら食べさせたいだなんて、いい父親なんだな)
岩永の中では久志と夏樹の関係は親子ということで落ち着いたようだ。
「わかりました。お父さんは? 欲しいものはありますか? 一緒に買ってきますよ」
「――父? いや、分からないが、特に欲しいものはないと思う」
「そうですか。では、行ってきますので」
そう言うと、岩永はコンビニへと駆け込んでいった。
「父? あの運転手は父の知り合いなのか?」
早々に買い物を終わらせてレジに並んでいる岩永のことを、タクシーの中から眺めながら久志は首を傾げた。
「久志さん」
「ん、どうした? 気分が悪くなってきたのか?」
「熱い、熱いです……これ……脱がせて……」
「夏樹」
久志にもたれかかった夏樹が、喘ぎながら着ぐるみの胸元を引っ張った。
「久志さん……熱い……っ」
「夏樹、もうちょっと我慢してくれ」
脱がせて欲しいと夏樹は訴えているが、こんなところで肌を晒させるわけにはいかない。どこで誰が見ているかもわからないのに、また変な輩に目でもつけられたら大変だ。
「夏樹」
「熱が上がってきたみたいですね、これを」
コンビニから戻ってきた岩永が冷却シートを差し出した。
「お父さんも心配かもしれませんが、子供は良くなるのも早いですから」
「……? ああ、すまない。ありがとう」
岩永が手際よく夏樹の額へ冷却シートを貼り付けた。
「…………んっ」
「お子さん、可愛らしいですね。少しでも楽になるといいのですが」
「子供? 私たちの間にはまだ子供はいないが」
「そうですか、お二人目はまだ……でも兄弟がいるのもいいものですよ。うちは娘が一人で……って、急がないといけませんでしたね」
岩永が運転席へ着くと静かに車は走り出した。
久志が隣へ目を向ける。冷却シートのおかげで落ち着いたのか、夏樹は静かに目を閉じていた。
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