23 俺の意思じゃないですから!

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「…………」 「松本くん?」 「……俺から行ったのは本当です」  臆病な小動物が巣穴から外の様子を窺うように、夏樹が布団の中から顔だけをそろりと出している。  芹澤は信じられないというように夏樹の顔を見ると、続いて久志の方へ振り向いた。 「ほら、私の言った通りだったろう」 「松本くん……」  得意げな様子の久志と、不憫な子を見るような眼差しで夏樹の方を向いている芹澤。 「あのっ、違います! 確かに俺から久志さんの……に突っ込みましたが、それは久志さんがいきなり下着を脱ごうとするから、止めようとして……それで……」  ちょっとは興味はあったが、自分から久志の股間へ顔を突っ込んだなんて思われるのは心外だ。夏樹が必死で芹澤へ状況説明をする。 「だから、俺の方からくっついてしまったのは本当ですけど、不幸な事故というか……」 「不幸な事故じゃないだろう。夏樹、照れてる君も愛らしいが、君はもっと自分の心に正直にならないといけないよ」 「――久志さん、あなたはちょっと黙っててください。松本くん、分かりました。すみません、私の誤解だったようです」 「芹澤さん」  芹澤の誤解は解けたようだ。夏樹はほっと安堵の息をついた。 「松本くん……怖かったでしょう? 昨夜、あんなことがあったばかりだというのに、また朝から変態の餌食にされてしまって……」  そう言いながら芹澤が夏樹の髪を撫でる。  幼馴染で気心の知れた仲とはいえ、久志のことを変態扱いできるのは芹澤くらいのものだろう。 「ちょっと、久志さん」  ひとしきり夏樹のことを愛でた芹澤が、表情を一転させて久志のことを睨みつけた。 「何だ?」  いつの間にシャワーを浴びてきたのか、半乾きの髪にさっぱりした顔の久志がクローゼットの前でネクタイを締めている。 「あなたが二十年もの間、一途に松本くんのことを想ってきたことは、私もずっと側で見てきたので知っています」 (――――え?)  芹澤の言葉を聞いた夏樹が、布団に包まったまま首だけを久志の方へ向けた。  夏樹に背中を向けているが、クローゼットの鏡に映った久志がバツの悪そうな顔をしている。 「おい、芹澤」  ネクタイを締めながら、久志が芹澤の言葉を制止する。
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