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「何ですか?」
「もういいだろう」
「いいえ! 今度という、今度は私も久志さんへひとこと言わないと気がすみません! だいたい、昨夜だって具合の悪い松本くんを勝手に連れ出して……部屋を見に行った時に私がどれだけ驚いたか……」
「ちゃんと連絡はしただろう」
「ええ、ありましたよ。今朝!」
昨夜、突然姿を消した久志と夏樹のことを心配した芹澤は、一晩中、二人のことを探し回っていたらしい。
「携帯は繋がらないし、自宅は留守だし――いや、居留守ですね」
「芹澤さん……」
芹澤の目の下に隈ができている。
「松本くんの具合が悪くなったんじゃないかと思って、山路くんと一晩中、あちこちの病院を当たってもいないし……おかげで近隣の病院の情報は完璧になりましたよ!」
「――芹澤さん……すみません……」
全面的に夏樹が悪いわけではないが、芹澤のことを見ていると夏樹は何だか申し訳なさで押しつぶされそうになってしまった。ベッドの中から芹澤のことを上目遣いで見上げる。
「松本くん……本当にあなたは良い子ですね……」
普段、久志から真摯に謝られたことなどないのだろう。芹澤は夏樹の謝罪の言葉に感動したように言葉を詰まらせた。
夏樹のことを抱きしめている芹澤を久志が横目でちらりと見る。
「良かったじゃないか。病院の情報も覚えたし、山路と一晩中過ごせたんだろう?」
全く反省の色のない様子で久志がスーツを羽織る。
「夏樹、仕事は休みなさい。出来るだけ早く帰るから、今日はおとなしくしているように――夏樹?」
「――――です」
「ん?」
「俺、今の久志さん、嫌いです」
「…………え?」
「俺と久志さんが突然いなくなって、芹澤さん、すごく心配してくれて……一晩中探してくれていたのに……山路さんだって……なのに、久志さん全然分かってないです。俺、思いやりのない人なんて嫌いです」
「…………夏樹?」
夏樹からの嫌い宣言に、久志の顔色がなくなる。
「えっ? どうしたんだ? 夏樹……?」
言われた意味が飲み込めないのか、久志が何度か夏樹に呼びかけたが、夏樹は知らんぷりで布団の中へ潜り込んでしまった。
「夏樹……」
「久志さん、行きますよ」
まさか夏樹から拒まれるとは思っていなかったのだろう。
魂が抜けたように表情をなくしている久志は、芹澤に引きずられるようにして部屋を後にした。
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