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そんな夏樹の心を見透かしたように芹澤が微笑む。
「大丈夫ですよ。肝心の上司が朝から全く使い物にならないので、時間が空いたんです。しばらくしたら、また戻りますので」
「えっ……久志さん、具合が悪いんですか?」
「いいえ? 一晩中、松本くんのことを見守っていたなんて信じられないくらい元気ですよ。本当に、あの体力はどこからくるんでしょうね」
芹澤は目線を天井に向け、呆れたように大きく息を吐き出した。
「あの」
「松本くん。あの人が幼馴染で、私にとって弟のように思っている存在だから言うんじゃありませんが、どうか久志さんのことを嫌わないであげてくれませんか?」
「――え、そんな……俺、久志さんのこと嫌ってなんか……本当です」
芹澤のスーツの袖を掴み、焦ったように夏樹が言い募る。
芹澤は夏樹の頭を撫でながら、スーツの袖を掴む夏樹の手をやんわりと外した。
「ええ、松本くんの顔を見たらわかりました。あんなおバカのために泣いてたんでしょう? 目が真っ赤になっていますよ」
「なっ、泣いてなんかいません! これは寝不足で充血してるんです!」
「おや、そうですか。それじゃあ、やっぱり松本くんは久志さんのことを嫌いになってしまったんですね――わかりますよ。いい歳して初恋をこじらせてる我儘な男なんて嫌になって当然です」
「……あの、朝も聞いたんですけど、その初恋って……」
「ああ、それはですね……」
首を傾げている夏樹の手を握り、芹澤が口を開いたのと同時に、ものすごい勢いでドアが開いた。
「芹澤っ!」
「久志さん!?」
「おや、久志さん。私が言いつけた仕事は終わったんですか?」
むすっとした表情の久志が芹澤へ紙袋を投げた。
「終わった。ちゃんと書類の角も揃えたし、左上をホッチキスで止めた――あと、余計なことは言うな」
「ちゃんと出来ていますね。全く……書類の整理しか出来ないなんて、どこの役立たずな会社役員ですか」
紙袋の中身を確認した芹澤が呆れた声を出す。
「まあいいでしょう。久志さん、今日の業務は終了です。私はこれで帰りますので、後は初恋の相手にもう一度告白でも何でもしてスッキリしてください」
「――えっ?」
「芹澤っ!」
何事もなかったように紙袋を抱えなおすと、くれぐれも無理をしないようにと夏樹に意味深な言葉を残して芹澤は部屋を出て行った。
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