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「あの……久志さ……」
「夏樹、これを」
ベッドの側まで歩いてきた久志が、夏樹の前にコンビニの袋を差し出した。
「――え、あの」
「君の好きなコーヒーゼリーだ。仲直りしたいなら、プレゼントをしたらどうかと、山路が……何がいいか色々と考えたんだが、君の喜びそうなものがこれしか思いつかなかった」
「はあ、ありがとうございます」
膝の上に乗せられた袋には、夏樹がいつも食べているコーヒーゼリーが六個入っていた。
(ひとつでじゅうぶんなんだけど)
どう考えても、一度にこんなに食べられない。
「店にあったものを全部買ってきたんだ」
夏樹が無言で袋の中を覗いているのをどう勘違いしたのか、店のコーヒーゼリーを買い占めたことを久志が得意げに言った。
「……」
「それと、夏樹。そのままでは体が冷えてしまうよ。とても魅力的だが、今の私にはちょっと目の毒だ」
「え? あ、うわっ! 俺、えっ」
朝のままの格好で寝入ってしまっていたため、夏樹は体に何も着けていない。
「これを着るといい」
久志が夏樹の肩に白いボア生地を掛けた。
「すみません、ありがとうございます――って、これ何ですか?」
「夏樹、君のために作らせた着ぐるみの白うさぎバージョンだ」
「は?」
「昨夜君に着せた子リスも素敵だったんだが、白うさぎも捨てがたくてね。洗い替えに作らせておいた。気に入ってくれるといいんだが」
「子リス? 俺、そんなの着てたんですか?」
「ああ。とても君によく似合っていた。こちらの白うさぎもなかなか素敵だろう?」
絶対に喜ぶに違いないと信じてやまない様子で久志が夏樹のことを見つめている。
期待に目を輝かせている久志に「こんなの着たくありません」なんて告げるのはあまりに酷だ。
とりあえず嬉しそうにして、後で着ますとでも言っておけばいいだろう。
そう判断した夏樹は、肩に掛けられた白い布地を両手で持って、目の前に広げた。
(──わ。ほんとにうさぎだ……)
夏樹は久志の方をちらりと見た。
明らかに、喜ぶ夏樹の反応を久志は待っている。
「……わー、うれしいです。ありがとうございます」
完全な棒読みだ。
だが、久志は全く気付いていないようで、いそいそと白い着ぐるみを手に取ると夏樹の体に当てがった。
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