24 とまどい

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「そうだろう。さっそく着てみるといい」 「――へ?」 「ん? どうした? 着方がわからないのか? 大丈夫、私が手伝ってあげよう。ほら、布団から出てきなさい」 「は? えっ、い、今から? 今から、それ、着るんですかっ?」 「そうだが?」 「あの、今すぐじゃなくて、後で……そう、後で着ますからっ」 「遠慮なんてしないで。君は本当に控えめだから……まあ、そんなところも好きだよ、夏樹」  泣くほど好きな相手から好きだよと言われているのにちっとも嬉しくない。  驚くほどの手際の良さで白うさぎの着ぐるみを着せられた夏樹は、そのまま久志にベッドへ押し倒された。 「ひっ、久志さん?」 「やはり思った通りだ。とてもよく似合っているよ……本当に素敵だ」  ベッドに仰向けになった夏樹へ久志が頬ずりをする。 「久志さん、ちょ……俺、話が……っ」 「――話? どうしたんだい、改まって」  久志は夏樹から顔を離した。 「……久志さん、ちゃんと芹澤さんに謝りましたか?」 「え?」 「俺、久志さんが芹澤さんに酷いことを言ったの、まだ許してませんから。ちゃんと芹澤さんに謝るまで、俺……久志さんのこと嫌いなまま、です……から」 「ち、ちょっと待ちなさい。夏樹、芹澤に謝るようにってそれは──」 「久志さん」  仰向けに寝かされた夏樹が、久志のことを真っ直ぐに見上げている。  夏樹的に目一杯恐い表情をしているつもりのようだが、どう見てもうさぎの着ぐるみを着た愛らしい少年が拗ねている様にしか見えない。  反射的に久志の頬が緩む。 「久志さんっ!!」 「――――はいっ!」  夏樹が出したとは到底思えない厳しい声が寝室に響いた。  思わずびくっと体を強ばらせた久志は、これまで誰にも言ったことのないような「良い返事」を返すと、ベッドの上にちんまりと正座した。 「久志さんは自分がどれだけ周りの人達に助けられて今までやってこれたのか、考えたことありますか?」 「…………」 「自分ひとりの力でやってこれたなんて思ってたら大間違いですよ! 誰だってどこかで必ず誰かから助けられてるものなんです。だから、自分も人に感謝して優しくしないとダメなんです!」 「…………」 「久志さん!? 聞いてるんですか?」  ベッドの上で同じように正座をしているうさぎさんに名前を呼ばれた久志が、のろのろと顔を上げた。
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