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「――夏樹」
久志が情けない声を出す。
「少しは反省しましたか?」
白うさぎ姿の夏樹に覗き込まれた久志が小さく頷く。
「―それじゃあ、久志さんが今、何をしないといけないのかわかりますね?」
夏樹はそう言うとベッドサイドにあるテーブルを指差した。テーブルの上には夏樹の携帯が充電スタンドに立てかけてある。
久志は夏樹に促されるまま携帯を手に取り、普段から一番よくかける相手の番号を呼び出した。
『……はい』
「…………」
『――松本くん? どうかしましたか?』
「芹澤……」
『久志さん? どうして久志さんが松本くんの携帯からかけているんですか? まっ、まさか……久志さん、あなた……自分の欲望のまま、体調の戻っていない松本くんに無体をはたらいたんじゃ……』
「……いや、その」
『松本くんは無事なんですか!? もしかして久志さんからの仕打ちに意識を失っているとか……ああ、信じられない……久志さん、あなたって人は……』
携帯の向こうからガタンと、ものをひっくり返したような音が聞こえる。どうやら芹澤が携帯を持ったまま夏樹のもとへ駆けつける準備をしているようだ。
『いいですか? 今からそちらに行きますので、くれぐれも松本くんにそれ以上手出ししないように!』
「芹澤……すまない」
『――――は? もしかして……久志さん、気を失ったなっちゃんに……』
携帯の向こうで芹澤が絶句した。
久志が無茶をしてしまったとすっかり思い込んでいる芹澤の中で、夏樹はすでに大変なことになっているようだ。日頃の行いが悪すぎるせいで、久志は全く信用されていない。
「夏樹は大丈夫だ。まだ手は出していない……そうじゃなくてだな、芹澤、いつもお前には世話になりっぱなしなのに、今朝は……その、酷いことを言って……すまなかった」
『は?』
「だから、悪かった。すまない」
『――久志さん? どうしたんですか、大丈夫ですか?』
「とにかく、今朝のことは謝ったから。またこれからもよろしく……」
携帯を耳に当てたまま久志が夏樹の方を見た。久志と目が合った夏樹がニコリと笑いながら頷く。
「…………お願いします」
『ちょ、久志さ……』
芹澤がまだ何か言いかけていたが、久志は強引に通話を終えた。
「ちゃんと、謝ったぞ」
「はい。よくできました。久志さん、好きですよ」
そう言うと、夏樹は久志の頭を撫でた。
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