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「ん? どうした…………夏樹!? 大丈夫かっ!?」
息も絶え絶えな夏樹から背中を叩かれ、久志はやっと夏樹が窒息寸前なことに気づいた。
「……ひさ……さん」
「夏樹! 夏樹、死ぬなっ!」
久志の腕の拘束が緩んだことで、夏樹はようやく呼吸ができるようになった。
なのに、再び久志から抱きすくめられたことで、またもや夏樹の意識が遠のいていく。
「夏樹! 目を開けてくれ、私を置いていかないでくれ!」
「…………さ、ん」
頼むから首にキマっている腕を緩めて欲しい。
本気で身の危険を感じた夏樹は重い腕を何とか持ち上げ、自分の首に絡みついている久志の腕を軽く引っ掻いた。
「…………て」
必死の訴えが届いたのだろう。久志が夏樹から体を離し、その顔を覗き込む。
「――夏樹? 気がついたのか?」
「久志……さ、ん……」
「ん? 何だ、どうした?」
「…………」
ようやく確保された気道から夏樹が何度か深呼吸する。
「――――この……っ」
「えっ?」
おバカ! という叫び声とともに夏樹の拳が久志のこめかみにヒットした。
恋人からの予想外の攻撃に拳を回避できなかった久志は、呻き声をあげると夏樹に覆い被さるようにして倒れた。
「夏樹、君……どう……して……」
「知りません」
久志が体を起こす。恐ろしい回復力だ。
「教えて欲しい。私はまた、まずいことをしてしまったのか?」
久志に背中を向けて布団の中に潜ってしまった夏樹を、久志は布団ごと、今度は優しく腕に抱いた。
子供の頃から、自分よりはるかに年上の大人たちに囲まれた中で生活してきた久志は、まともな友達付き合いをしてこなかった。
相手が自分のために動くのは当然で、他人を思いやるといった部分では久志はとても不器用なのだ。
夏樹は以前、芹澤から聞かされた久志の幼い頃の境遇を思い出し、布団から顔を出すと久志の方へ体を向けた。
「久志さんが力一杯抱きしめたから、息が止まりそうだったんです。すごく苦しかったんですよ」
両手で久志の頬を包み、もうしないでくださいねと言うと、夏樹は久志の顎先にチュッと音を立ててキスをした。
「わかった……これから君にはうんと優しくする。だから、私にも優しくしてくれるかい?」
可愛い恋人からの返事を待たず、久志は夏樹へ覆い被さると、そっと唇を重ねた。
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