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「――それで? ……っ」
久志が不機嫌そうにカゴヘ目線を戻した。あの時の子供と同じ、まん丸な瞳と目が合って久志は言葉を詰まらせた。
あの子供が楽しみにしていた子猫を芹澤が持ち帰ってきたこともそうだが、あの子のことを芹澤がなっちゃんと呼んだことにも何となく腹がたつ。
だが、自分がハゲ親父の退屈な話を聞かされていた間、芹澤があの子供と一緒に楽しそうに子猫を選んでいたことだとか、芹澤があの子供と自分よりも仲良くなっていたことなど、目の前の子猫には関係のないことだ。
あの子の家で飼えないのなら自分が飼ってやってもいいかと久志は思った。そうすれば、もしかしたらあの子供とまた会えるかもしれない。
「――芹澤。その子猫、飼い主がいないなら俺が引き取ってやってもいい…………」
「なので、私が飼うことにしました――――久志さん? 何か言いましたか?」
「……いや」
「この子、可愛いでしょう? 何となくなっちゃんに似ていると思いませんか?」
確かに子猫のくるりとした瞳があの子供に似ている。だから久志も飼いたいと思ってしまったのだ。
「名前は何にしましょうか? ねえ、猫ちゃん?」
そう言って、子猫を抱き上げた芹澤が子猫の鼻先にちゅっとキスをした。
「――っ、おい! 芹澤!」
「何ですか?」
「いや、何でもない。名前が決まったら教えてくれ」
何なんだ。芹澤はただ子猫にキスをしただけだ。なのにどうしてこんなに腹がたつ?
体格と頭脳は大人と変わらないのに、このわけの分からないモヤモヤとした感情の正体が一体何なのか分からない。
十二才の久志は初めてもった感情をどう処理すればよいのか分からず、持て余すばかりだった。
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