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さあ、と言って夏樹が久志の胸元を掴む。
「あー、そのことだが……今さらというか……君、本当は分かっているんだろう?」
困ったように眉尻を下げる久志の顔を見ながら「この人は肝心なところでは照れるんだ」と夏樹は思った。
「きちんと久志さんの言葉が聞きたいんです」
「……夏樹」
「久志さん」
久志は夏樹の頭を胸元に抱え込んだ。
「えー、あまり何度も言うことではないから、一度しか言わない」
好きだ、愛してると挨拶のように日頃夏樹に言っているくせに矛盾している。
「――夏樹、初めて君と出会った二十年前から、ずっと好きだ……だから、これからの二十年……いや、ずっと私とともに過ごしてくれないだろうか――夏樹、好きだ、愛してる。君なしでは私の世界は色のないモノトーンの世界……」
「……ちょ、もういいです。わかりましたから、口を閉じてください」
放っておいたらいつまでも喋り続ける久志の口を夏樹が手で押さえた。その手を頬へ滑らせ、久志の顔を両手で包み込む。
「――はい、俺でよければ。久志さん、俺とずっと一緒にいてください――後悔させないでくださいね」
夏樹はそう言うと、今度は唇で甘い言葉ばかりを紡ぎ出す男の口を塞いだ。
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