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「追加でこれを」
長身の男がレジカウンターにコーヒーゼリーを二つと、どこから出したのか、さらにもう一つカウンターの上に置いた。
コーヒーゼリーをカウンターに置いた後、まるで威嚇するように、長身の男が葉月のことを睨みつける。
「久志さん」
童顔の男が、長身の男のスーツの裾を引っ張った。
長身の男の表情が一転、柔らかなものになる。
「夏樹? どうかしたのか?」
「俺……こんなに食べられないです」
カウンターにずらりと並べられた、全部で五つのコーヒーゼリーを見ながら、童顔の男が困ったような声を出す。
どうやら、コーヒーゼリーは童顔の男が食べるようだ。
「そうかな。私は足りないんじゃないかと思ったんだが」
「俺が一日一個しか食べないの知ってるでしょう?」
(────ん?)
彼ら二人の様子を見ていた葉月が、何かに気づいたように目を見開いた。
(この人たち、付き合ってる?)
二人の間に流れる独特の甘い雰囲気。
これは兄の皐月と、その恋人が二人でいるときのそれと同じだ。ちなみに葉月も、兄の皐月も恋人は男だ。
「ひとつは君が食べるといい。残りは一回にひとつ使うとして……四回か……夏樹、あと二ついいかな?」
(――一回にひとつ? コーヒーゼリーを使って何かを作るのか?)
「――久志さん! 何言ってるんですかっ」
さらにコーヒーゼリーを取りに行こうとする長身の男の腕を掴んで、童顔の男が引き留める。なぜか顔が真っ赤だ。
「君に無理をさせるつもりはないが、四回で足りるかい?」
「…………」
「いつも最初はイヤだと言うが、最後はもの足りなさそうに君の方から私に乗ってくることもあるじゃないか」
「久志さん!」
こんなところで止めてくださいと、童顔の男が長身の男の口を手で塞いだ。
「――あの、会計は……?」
「あ、はい。五回……いえ、五個で大丈夫です」
長身の男の口を塞いだまま、童顔の男が焦ったように答えた。
「六百四十八円です」
計算を終えた葉月が金額を伝えると、長身の男が内ポケットから財布を取り出す。
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